地層学雑誌のサービス開始

税率というものは、毎年変わるのが当たり前なんですね。
例えば、老朽化した小学校を建て替えることにすれば、多くの費用がかかります。
その費用をみんなで賄って建て替えることにするか、それとも費用があまりかからないように修繕で済ませることにするか。
建て替え方式だと、子どもたちのために新しい学校を用意してやれるけれど、その分、住民税の税率が高くなる。
修繕だと、老朽化の根本的な解決にはならないが、税負担はそんなに高くならない。
どちらにするかは、選択の問題なんですね。
それは税負担との兼ね合いで決めるんです。
ところが、わが国では、税率は毎年度まったくといっていいぐらい変わらない。
仕事の量は変わるにもかかわらず、です。
特に、国が決めた標準税率より下げると、国からペナルティを食らわされる可能性がある。
だから、これまで、例えば市民税だったら6%、固定資産税だったら1・4%よりも低い税率を採用する自治体はなかった。
税負担を下げたら、ペナルティを受けるなんて、変な国ですよね。
自分で決めないように仕向けるとは、まるで子ども扱いですね。
自分たちの仕事の種類と量を決める。
それに見合う税負担を自分たちで決める。
仕事を増やせば税負担は上がる、仕事を減らせば負担は下がるというバランスの中で、地域経営が本来、できていくわけです。
だが、日本の場合には、税率を動かさずに、どういう仕事をどれだけするかを論じてきた。
住民たちは当然、自分たちの負担、税率が変動しないのであれば、仕事をたくさんやってくれと要求するに決まっています。
ところで、昨今住民たちの議会に対する批判はすこぶる強い。
議員たちは何をやっているのか、口利きばかりではないか、などとする批判です。
でも、私は、譲会人も気の毒だと思う。
税率が固定されてしまっている仕組みの中で、議会はいったい何をしますか。
議会は本来、税率を決めるところです。
納税者のために、住民のために、税負担が上がらないようにする。
できれば、むしろ税負担を下げるようにする。
そのために、行政の無駄を省く。
これが本来の議会の仕事なんです。
「代表なくして課税なし」。
確かに、議会制民主主義の原点は税ですね。
ところが税率は事実上、国が決めているものですから、どんなに無駄を探しても、それが税負担の軽減につながらない。
仮に無駄を見つけてその事業をやめさせたとしても、そのおカネはどこかで他の事業に使われてしまい、納税者のもとには返らない。
こういうメカニズムの中では、議員たちはやることがなくなるんですね。
したがって、「小人閑居して、口利きをなす」ということになる。
口利きなどを通じて、議員さんたちはささやかな充実感を味わっているわけです。
「税率は変動する」ということを地方自治のメカニズムの中に取り戻せば、議会も活性化するし、住民の自治体行政に対する目も肥えてくるかもしれない。
そう思っていたら、名古屋市の河村たかし市長が市民税の10%減税に踏み切ったでしょう。
みんな、「とんでもない」と言っていたんですけれど、「それに見合う歳出のほうも下げます」という方針とセットにしたんですね。
もし、「税率を下げます。でも仕事は減らしません」と言ったら、財政赤字が増えるだけだから、愚かな選択になるんですが、彼は「両方下げます」ということにした。
いうなれば、大きな政府か、小さな政府かの選択肢を住民に提示したわけです。
河村さんの「10%減税」は、どうやら、税率をどうするか細かく計算したわけでなく、「市長が決断すれば減税ができる」ことを住民に示して、市政に関心を向けるきっかけにしたい、という政治的な意味合いが強いようです。
減税のために10年度は160億円、11年度には220億円の財源不足ができることを知らせて、この不足を補うために市の外郭団体の整理など行政改革に切り込む、という筋道をアピールした、ということでしょう。
そうだとしても、これは、わが国の地方自治の世界に強烈な新風を巻き起こす可能性があると思いますよ。
こんなことは、本来は当たり前のことですが、今までの日本の地方自治を正常化するための大きなインパクトを与えるものだと思っています。
ですが、河村さんの意図をなかなか名古屋市議会がくみ取れず、何やらドタバタ劇にしてしまったのは残念です。
もう少し、歳出との関係で税率を変動させるんだということを、地方自治の基本に戻って議論を進められたらいいんじゃないか、と思います。
今回の「10%減税」によって、どれとどれを削減したのか、その関係が必ずしもよく見えない、ということもあるのでしょうね。
来年度の予算編成では、「これとこれを削るから引き続き減税できるんですよ」と言えばいいと思いますよ。
これまでの自治体経営は、カネ(=歳入)が足りなくなったら国からどう補助金を引き出すか、ということばかりに知恵を絞ってきた。
住民に開いて仕事の大きさを決めるという発想がなかったんですね。
その発想は名古屋市議会にはいまだにない。
市議会は「10%減税は今年限り」と税条例を再び修正しましたが、税率はそもそも固定したものではないんだから、常に今年限りなんですよ。
来年度予算で仮に歳出が膨らんだら、税率もあがるわけですから。
議会の条例再修正が「税率を固定させません」という意味なら正しいんです。
ところが、どうも議会の真意は、市長への意趣返しであったようですが……。
しかも、結局は国が決めた標準税率への回帰になっているわけだから、やはり、名古屋市議会は思考停止しているのかな、と思います。
09年夏の総選挙では、マニフェストが多数配布されたようですが、英国などではこうしたマニフェストを2年くらいかけて、地方の組織の意見も聞き、侃々諸々の議論をしたうえでまとめているんです。
だから、党員の賛成率は9割を超えている。
09年衆院選の民主党では、その過程が決定的に足りなかった。
だから、マニフェストどおりに政策を実行しようとすると、地方からの異論が、党内からも出てくる。
その反省を踏まえれば、参院選では早い段階から地方支部でも議論を始めるべきでしょう。
ともすれば、中央での「幹事長室選挙」と言われかねないので。
09年のマニフェストがまとめられるとき、実はかなりレベルの高い議論はあったんです。
従来とは違って、住民主権を前面に押し出そうという思想があった。
マニフェストの背後にある「INDEX2009(政策集)」には色濃く残っています。
例えば、「住民投票法を制定します」というのがあるんですね。
住民自治を強化する延長線上で議会の機能回復もあった。
議会がいまのようにワンパターンでなく、いろんなタイプの議会があって、その中からいい議会が出てくる。
そういう意味での議会改革。
住民の自治体に対するチェック、監査機能をもう少し機能的にする、という記述もあったんです。
いいですよね。ところがそれは、マニフェストにする段階で盛り込まれなかった。
もともとその部分は、岡田克也さん(現外相)や玄葉光一郎さんらがまとめられたんですけれど、マニフェストにする段階で、その任にあった人たちに、住民自治とか住民主権の理念が共有されなかったのではないか。
けれど、今後の地域主権の進め方としては、先ほどの「政策集」の中にある、住民主権を中心にした自治制度の改革を進められたらいいのではないか、と思います。

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